【研究背景】
近年、家庭における血圧自己測定(家庭血圧測定)の有用性が明らかにされ、家庭血圧に基づく高血圧診療は国際的にも広く市民権を得つつあります。しかしながら、これまで高血圧診療の現場における家庭血圧測定の実態に関する大規模な研究はなく、年間すでに3000万台の家庭血圧計が販売されているわが国においても、その実態は不明です。
本研究は全国の主治医のもとで、家庭血圧測定を行っている外来降圧治療中の本態性高血圧患者さんにおける大規模調査であり、本研究概要は東北大学医学部倫理委員会において承認されています。
【研究目的】
J-HOME研究(The Japan Home vs. Office blood pressure Measurement Evaluation 研究)は、今日のわが国における家庭血圧測定の応用状況・評価状況を定量的に把握することを目的としています。
【研究方法】
対象は、日本全国の主治医のもとで家庭血圧自己測定を行っている降圧薬服用中の本態性高血圧患者さんです。
まず、本研究参加医師に対して家庭血圧調査票等の「J-HOME研究」調査セットを配布します。調査において外来血圧値・対象患者の性別・年齢・身長・体重・既往歴・危険因子・合併症・降圧薬の処方状況・患者の家庭血圧および外来血圧に対する主治医の評価(「極めて良好」「まずまず良好」「不良」の3段階評価)等を収集します。外来血圧値は普段の診療で測定している条件下での値の2回測定の平均値を用います。また対象患者の家庭血圧測定は、朝は毎朝1回、起床後1時間以内に、起座位で測定していただき、夜は就寝直前に測定していただき、患者さん自身の2週間の記録に基づいてその平均値を朝の家庭血圧値または夜の家庭血圧値として用います。
・対象者の特性
最終的な3400名の対象患者の特性は表1に示すとおりです。
・患者様の服用降圧薬
全体の7割の患者がカルシウム拮抗薬(CCB: Calcium channel blocker)を服用しており、ついでアンジオテンシンII受容体拮抗(ARB: Angiotensin II receptor blocker)が44%、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(Angiotensin converting enzyme inhibitor)が17%の順でした(図1)。
・血圧コントロール状況
朝の家庭血圧値が135/85mmHg未満にコントロールされていた割合は全体の約40%(1146名)であり、外来血圧値が140/90未満にコントロールされていた割合も家庭血圧同様全体の約40%程度(1425名)でした(図2)。さらに、朝の家庭血圧および外来血圧がともにコントロールされていた割合(家庭血圧<135/85mmHgかつ外来血圧<140/90)は約20%(648名)で、家庭血圧および外来血圧ともにコントロール不十分であることが明らかとなりました。
・患者の血圧に対する主治医の評価
朝の家庭血圧が135/85mmHg未満にコントロールされていないにもかかわらず、その血圧を「不良」と評価されている患者さんの割合は40%にも満たないという結果でした(図3)。
【考察】
これまでの研究結果より、家庭血圧測定は普及しているものの、家庭血圧コントロール状況はまだまだ不十分であり、主治医もその血圧値に満足する傾向があることが明らかとなりました。今後は、家庭血圧コントロールに影響を及ぼす因子についてより詳細な検討を行う予定です。
【展望】 (J-HOME追跡研究へ)
将来にわたり本研究対象者の追跡を実施することで、日常臨床における家庭血圧の役割を更に明確にすることが期待されます。従いまして、J-HOME研究におきましては、今後経年的な追跡による予後調査も実施することとなりました。詳細につきましては「J-HOME追跡(Morning)研究」、「J-HOME-Elderly」のページをご覧ください。